誰でも簡単にできる 人材マネジメントの構築方法

 

長文ですが以下のように行えば誰でも簡単に人材マネジメントを構築できます。

●ステップ1.社員への説明

  まず手始めに社員に人材マネジメントを構築するというアナウンスを行います。 人材マネジメントの概要、導入の目的や背景、考え方、具体的な仕組みについてかいつまんで説明します。概ね以下のように説明すればよいでしょう。

 

 1)人材マネジメントとは何か

  人材マネジメントとは社員の採用から育成、教育、配置、評価、処遇など人事全般の仕組みを会社の戦略的人材開発や社員の自律型参画という観点からトータルで捉え、運用することです。

  かみくだいて言うと「社員がいきいきと、やりがいを持ち、成長を感じて納得して働き、それを会社の成長に如何につなげるか」そのための仕組み作りと運用のことです。

 

 2)人材マネジメント構築の目的

  主な目的は社員の皆さんの「能力開発」と「動機付け」です。それに付随して「組織力の強化」、「管理職のマネジメント能力の向上」などもあります。

  また、結果として頑張った人・能力開発を図った人とそうでない人では処遇や人事などに違いが出ることも事実ですが、これが主な目的ではありません。

  社員の皆さんの能力開発を図ればおのずと組織の成果につながるわけで、究極 的な目標は会社の業績向上、生き残りとも言えます。いくつかの付随する目的はありますが、目的はあくまで社員の皆さんの能力開発です。

 

 3)「人材マネジメント」の具体的な仕組み

 (1)当社のあるべき社員の姿、人材像・行動基準を明らかにした「能力要件の    リスト=アクションシート」

 (2)社員の育成の後押しをする「社員教育の仕組み」

 (3)行動基準を明確にし、目標達成や仕事に取り組む姿勢、能力発揮の度合い

    などを測定する「評価テーブル」

 (4)自分を高め組織に貢献するための「目標管理の仕組み」

 (5)社員の頑張りに報いる「賃金テーブル・インセンティブの仕組み」

 (6)これらを効果的に回す「運用の仕組み」

 (7)人事評価・目標達成やチームの使命遂行のために必要な知識や目線合わせ。

  概ね、この程度を説明し、質疑応答を受けましょう。不安や希望などがいくつか出てきますから真摯に回答し、可能なものは制度の中に取り入れましょう。

 

 4)「構築メンバー募集のアナウンス」

   最後にメンバー募集のアナウンスを行います。概ね以下のような内容でよい  でしょう。

  「制度の構築は社長をはじめとする経営トップだけで行うものではない。トップの想いはもちろんあるが、皆さんの意見を聞き、皆さんに作っていただきたい。

  そこで今回皆さんから構築メンバーを募りたい。部門ごとに管理職と一般2名 程度が適当と考えている。どんどん立候補してください。」

  最後に「人数の制限があるので、全員の希望を受けられない場合もある」ということを必ず付け加えましょう。不満分子が徒党を組んで参加すると大変です。

 

●ステップ2.社員へのアンケート実施

 制度構築に取り掛かる前にアンケートを取ります。社員の率直な意見を聞き制度に反映するため、そしてガス抜きのためです。

1)アンケートの項目決定、2)アンケート配布と回収、3)集計と結果の公表、という手順で行います。

1)アンケート項目決定

 アンケートの項目は概ね以下の9項目程度で実施します。

(1)会社は社員に求める人材像を社員に知らせる必要があるか、

(2)会社は社員教育に力を入れるべきか、

(3)本人の能力や仕事に取り組む姿勢態度、業績などを賃金や昇格昇進などに反映すべきか、

(4)賃金や昇格昇進などはどのような基準で決めるべきか、

(5)一般社員はどのような人材像であるべきか、

(6)管理職はどのような人材像であるべきか、

(7)現在の賃金、昇格昇進の決定方法、その他人事上の問題はあるか

(8)その解決方法、

(9)自由記述欄

 以上9項目程度でよいでしょう。

 (1)~(3)についての選択肢は「大いにそう思う」「そう思う」「あまり思わない」「思わない」の4つでよいでしょう。思う思わないいずれかを選択してもらうため「どちらともいえない」は入れません。

(4)の選択肢は「年齢」「勤続」「能力」「仕事に取り組む姿勢や態度」「成果や業績」「トップの主観」「その他」程度です。

(5)の選択肢は「専門能力が高い」「知識が豊富」「お客様の都合を優先する」「問題解決力が高い」「積極性が高い」「ルールやマナーを守る」「責任感が強い」「協調性に富む」「向上心が高い」などで必要に応じて追加しましょう。ただあまり多くしないほうがよいでしょう。

(6)の選択肢は(5)に「会社の発展をいつも考えている」「仕事をきちんと教えるなど部下の育成に積極的」「必要なことやトップで決まったことなどをメンバーにきちんと周知する」「部下の行動に責任ある態度を取っている」「経営感覚を有する」などを加えればよいでしょう。

(7)以降は空欄を設け自由に記入してもらいます。

 

2)アンケート配布と回収

  回収の方法に工夫が必要です。以前のメルマガでも申しましたが、無記名は当然 で名前が絶対分からないようにすることが重要です。少しでも不安があると本音の答えはもらえません。開封できない投函用の箱を作りそこに入れてもらう方法が多いです。

  弊社がお手伝いする場合は弊社の住所を書いて切手を貼った封筒を一緒に渡し、 本人に直接ポストに投函してもらいます。集計と意見のテキスト打ちまで全て弊社で行います。こうすれば匿名性は確保できます。意見をワープロでプリントアウトしアンケート用に貼り付けたりする用心深い人もかなりの数に上ります。

 

3)集計と結果の公表

  これらをデータとして集計し、意見は全てテキストで打って原則全て公開します。

 全て載せないと会社にとって都合の悪いものは載せていないと言われます。自分 が書いた批判的な意見も載っているか確認する人がいるからです。

  これらを朝礼などで発表します。全員が一堂に会せない場合は、部門長や所長に 任せるのではなく、トップと人事部長が発表に回るほうがよいでしょう。彼らに任せると真意が伝わらないことがあるからです。

  「貴重な意見、本音の意見をもらったので、人材マネジメント構築に活かしたい」 と締めます。 

  せっかく多くの意見をもらうのですから、トップが納得できるものは制度の構築 に反映しましょう。

 

●ステップ3.出来上がりをイメージし、ゴールを明らかにする

どんな仕組みにしたいかをトップが議論し共有します。この時点ではまだ人材マネジメント委員会の委員は参加しません。これを基軸にして制度の構築を進めていきます。根本にあるものは「能力開発」です。くれぐれもここを外さないでください。

 以下の1)から3)について検討し、事例を参考に「人材マネジメント全体像兼職能資格体系表」に記入してください。

 1)制度の目的

  制度の目的は「社員の能力開発」です。そしてそれを組織や会社の成果につなげることが最終的な目的といえますが、原則は「社員の能力開発」です。ここだけは外さないようにします。

  副次的な目的もあります、それは「組織マネジメントの向上」です。管理職がメンバーの育成に力を入れ、定期的な面談を行うことによりコミュニケーションを円滑にして組織力の向上を図ります。この2つを「人材マネジメント全体像兼職能資格体系表」の「制度の目的」欄に記入します。原則として目的はこの2つと考えていますが、他にもあるようでしたら追加してください。ただ、目的を一つに絞るとしたら「社員の能力開発」であることは外さないようにして下さい。

 

 2)制度の全体像

  ざっくりした制度の全体像を数個示します。制度の理念と考えて下さい。

  「会社と管理職が社員を育てる仕組み」「社員自らが将来像・人材像を描く自律型の仕組み」「工夫した人が報われる仕組み」「前例踏襲は評価しない仕組み」「成果主義でない、プロセスを重視した仕組み」「仕事に取り組む姿勢を重視した仕組み」「一つのことを極める人も認める仕組み」「極端な処遇の格差はつけない仕組み」などが事例です。 

  多くのトップからは「信賞必罰の仕組み」というご意見も出ます。しかし社員を 痛めつける仕組みではないので、想いはよく分かりますが言わないほうが無難でし ょう。

 

 3)制度の枠組み

  単線型とするか、複線型とするかを検討します。単線型だと等級=役職であり、 役職者がいる限り上が詰まって下のものは能力があっても昇格(等級が上がる)出来ません。ポストが空かない限り昇格できないということになり、従来の年功序列型と変わりません。

  複線型は等級と役職は別物として処遇するので、ポストとは関係なく能力があれ ば昇格できます。役職は求められる資格を有するものの中から会社がマネージャー として適任と認めたものを会社の都合で任用します。

  このようにルートが2つあるので、役職に任命されなくても高い等級に昇格すれ ば専門職、技術職などとして役職者と同等の処遇が受けられます。単線型はひとたび課長などに昇格すると、本人が管理に向こうが向くまいがいつまでも課長として管理業務に当たることになり、能力や適性を生かすことができません。

  また、下位等級で優秀な社員の管理職就任の芽を摘むことにもなります。複線型 は等級が身分、役職は役割・使命と考えます。仮に管理職に任命したものの管理に向かないとなればその職を解任することも容易です。身分(等級)は変えないまま、役割・使命を管理職から専門職に代えるだけだからです。従って特別な事情がない限り、複線型とすることを強く勧めます。

 

 4)トップとして求める人材像を明らかにする

  経営目標、経営計画などを達成するために必要な、トップが考える人材像を明ら かにします。普段から思っていることを整理してみましょう。場合によって社員に不満を感じているその逆に人材像でもよいでしょう。

  例えば「管理職が部下を育成していない」であれば「部下の育成に熱心な管理職」、 「新規開拓を全くしない」であれば「新規開拓をする営業パーソン」となります。業 績、能力、仕事に取り組む姿勢という3つの切り口で考えるとよいです。

  業績であれば「売り上げの高い人」「未回収のない人」「粗利の高い人」、能力であれば「プレゼンテーション能力の高い人」「あきらめずに粘り強く交渉する人」「専門知識の高い人」、仕事に取り組む姿勢であれば「他と協力して仕事をする人」「新しいことにチャレンジする人」「陰日なたなく働く人」なども事例の一つです。

  求める能力を明らかにするアクションシート作成時に、PTメンバーに伝えるためにここで明らかにしておくもので、あまり細かく考える必要はありません。

  これについては特にシート類は用意していませんので、どこかに書きとどめておく程度で十分です。

  これらは人材マネジメント委員会のオリエンテーションやMTで社員にはっきり示すことが必要です。

 

●ステップ4.構築メンバー選出とオリエンテーション

 構築メンバーは社員への説明の折募集をかけましたので、原則応募した方の中から選びます。出来るだけ前向きでやる気のある方、トップが期待している方、将来の幹部候補生などがよいでしょう。

 後ろ向きの方が応募する場合もあるかもしれませんが、出来れば前者を選びたいところです。後者を入れて本人の意識改革を図ろうとする選択肢もありますが、この場合あまり多くしないことを勧めます。複数いると仲間となって足を引っ張ることがあるからです。

応募者の中に期待する方がいない場合は、トップから直接参加を呼びかけてはいかがでしょうか。トップが納得できるメンバー構成でないと、構築のプロセスの中でトップに必ず不満が沸いてきます。ある程度トップが納得するメンバー構成で制度の構築に望みたいところです。

 最初の会合はオリエンテーションです。手順は

1.社長挨拶、

2.実施内容の説明、

 1)人材マネジメントの考え方、

 2)構築する仕組みの概要、

 3)委員の皆さんにお願いすることと期待、

 4)構築スケジュール(帳票事例を差し上げます)、

 5)委員長選出、

3.質疑応答、

4.次回委員会準備のお願いです。

 

 以下がその内容です。

1.社長挨拶

 制度にかける社長の思いを熱く語ります。最後に社長のポケットマネーで打ち上げを行う会社もありました(これはインセンティブではなく拷問だとおっしゃる方もいましたが、失礼)。

 1)人材マネジメントの考え方、

  11月27日発行の「人材マネジメントは何か」をかいつまんで説明します。  特に、目的は「社員の能力開発で、それを組織や会社の成果につなげたいこと」を強調します。

 2)構築する仕組みの概要

  社員への説明の折に話したことをもう一度念押しします。制度の意味と構築す る背景をしっかり理解したうえで構築に臨んでいただきたいからです。

 3)委員の皆さんにお願いすることと期待

  アウトプットする帳票の説明を行います。皆さんに議論していただきアウトプ ットするものは職能資格体系表、人材ニーズ検討表、アクションシート(職能要件表)、教育プログラム、人事評価シートで、賃金テーブルと運用のルールはトップと人事で作成し、メンバーの了解をもらいます。

 4)構築スケジュール

  大まかなスケジュールを説明します。

 5)委員長選出

  委員長を選出します。委員長は会合の司会だけでなく、意見が割れた場合などにあるべき方向へ導くことも重要な役割です。リーダーシップがあり能力の高い方だと今後の会合がスムーズに進みます。

  また、毎回会合前にはトップ、人事とよく打ち合わせし、会合の方向性や大まかな落としどころなどを詰めておく必要があります。

  ある程度しっかりした方を選びましょう。事前に根回しをしておきトップから 「だれだれ君ではどうか?」と提案してもよいでしょう。

3.質疑応答

  メンバーからの質疑に真摯に答えます。問題があれば勇気を持って変更や修正 することも必要です。

4.次回委員会準備のお願い

 次回の事前準備を依頼します。これは今回に限らず、全てのミーティングで依頼します。

5.上記以外にも必ずメンバーにお願いしておくことがあります。

 1)前向きに発言し、自分たちで作り上げること。

 2)委員会の議事を自部門に持ち帰りよく説明をし、意見をもらってMTで発表  すること。

 3)会合には必ず出席する、万一欠席の場合は経緯の説明をきちんと受けた代理  を出すこと。

   この中で特に部門からの意見は必ずもらうよう義務付けて下さい。MTのメ  ンバーだけで進めて行くと、完成したときに説明を受けていない社員からクレームがつくからです。

 

●ステップ5.職能資格体系構築

 社員の身分と役割を体系化した職能資格体系表を作成します。

 身分とは等級のこと、役割とは役職と職種のことと理解してください。この2つは別物です。以前多くの中小企業では等級という概念がなく役職が社員の身分となっていました。

 一般、主任、係長、課長、次長、部長と昇進していく仕組みです。係長までは実質管理はしないので問題ありませんが、課長以上になると本人の管理能力に関わりなくポストが空かなければ頭の差し替えは出来ません。

 従ってその方より能力の高い人がいても管理職が昇進若しくは退職しないと下のものは昇進できません。そもそも非常に売り上げの多い優秀な営業パーソンでも、管理職に向いているかどうかは分かりません。

 売ることは得意であっても昇進させたら管理能力ゼロという方は沢山います。そういう方は生涯物を売っていたほうが会社にとっても本人にとっても幸せです。課長にならずたくさん売ってもらい、課長と同等の処遇をしようとするものです。

 このように能力基準と役職は切り離して人事処遇することが求められます。

 等級とは発揮してもらいたい能力のレベルを概ね1~8級程度にランク付けしたものです。

 そこで今回は等級と役職は分けて仕組みを構築します。これを複線型人事制度と呼びます。

 最初に等級の区分をします。能力レベルにより1から8等級に分割します。いくつに区分するかは議論のあるところですが、中小企業であれば経験則として8等級程度が最適と考えます。あまり多いと等級間の能力差がはっきりせず、逆に少なすぎると昇格までの期間が長く、昇格意欲がわいてきません。

 1等級が最も能力レベルが低く、8等級は最も高いレベルです。

 次に職種別に管理職にならずその仕事を極めた場合最高どの等級まで昇格できるかを決定します。8等級に設定した場合最高は6等級程度が標準的です。最上級の6等級はその職の最高レベルの仕事が出来るというレベルです。

 この場合管理職にならずに5、6等級に在籍する方をエキスパート、プロフェッショナル、フェローなどと呼び特別に処遇する会社もあります。このような肩書きが名刺に書かれていれば、本人は悪い気はしないかもしれませんね。

 1から4等級は一般職です。

個々の職の最高等級は会社の事情によって違いますが、営業支援事務、単純補助事務などは2、3等級、営業は行わず配送のみの業務などもせいぜい3等級程度が上限です。

 これらの職の方からは不満が出るかもしれませんが、かといって高くすれば他の職の方と比べた場合フェアではありません。辛い言い方ですが、単純業務の価値に気付いていただくよい機会かもしれません。

 もし昇格意欲があるのなら自ら手を挙げて、上限等級の高い職へ異動のお願いをすればよいことです。

管理職(課長以上)は5から8等級です。専門職(エキスパート)より管理職の上限等級が高い理由は、専門の仕事を追及するよりチームのマネジメントを行い成果責任やメンバーの育成責任を持つほうが精神的にも肉体的にもきついという考え方からです。

 自社の事情によりどちらも同じと考えるなら、一緒にしてもかまいません。ノーベル賞を受賞した島津製作所の田中さんのような方が求められるもしくは存在する会社であれば、8等級まで設定しても問題ありません。会社の考え方次第です。

 次に役職がどの等級に対応するかについて取り決めます。課長部長が存在する場合は課長が5から6級、部長は6から7級程度とすればよいでしょう。重役は7から8級程度のイメージです。その間にエリアマネージャーなどが存在する場合は6から7等級程度とすればよいでしょう。

「人材マネジメント全体像兼職能資格体系表書き方事例」を参考にしてこれらを職能資格体系表に記入します。これで人材マネジメントの枠組みである職能資格体系が完成しました。

●ステップ6.全社的人材ニーズ明確化

 全社的な人材ニーズを検討し人材ニーズ検討表を作成します。

 全社に共通する人材ニーズと自部門のそれを検討します。会社や部門の目標達成を図るため、会社が成長していくために必要な求められる人材像を検討します。

 人材ニーズ検討表の「会社・部門の目標、方針」の欄には会社、部門のそれを記入します。人材ニーズの欄には会社や部門の目標達成のため、成長していくために必要と思われる人材像を能力(仕事をなすべき力)の領域、勤務態度(仕事に取り組む姿勢)の領域という2つの切り口で検討し記入します。

 記入事例を参考に記入しますが、次のステップで部門別に求められる具体的な行動基準を明らかにしますので、ここではあまり細かくする必要はありません。ここでざっくりとしたイメージを書いて、次のステップでそれを業務にまで分解するという方法です。

 最初に全社共通の人材像を検討します。次に自部門の人材像、最後にわかる範囲でよいので他の部門に求められる人材像を検討します。トップもイメージしている人材像をはっきりと伝えましょう。

 ここでのポイントは「会社の中で一番はどんな人材像か」ではなく「目標を達成するために必要な人材像、競合他社に勝ちぬき生き残っていくために必要な人材像」を検討してください。今存在する社員ではなく、本来あるべき社員をイメージするのです。そうしなければ他社との厳しい競合に勝ち抜いていくことができません。

 社内に限らず業界でのあるべき人材像と考えたらよいでしょう。

 これらを持ち寄り会社全体の人材像、部門別の人材像を検討し決定します。他部門の人材像も検討することにより自部門では気がつかず、なるほどという意見も出てきます。忌憚のない意見交換が必要ですし、必要に応じて他の意見も受け入れましょう。 ここで明らかにした人材像の「能力の領域」は「7.個別の人材ニーズ明確化」で、「勤務態度の領域」は「9.評価テーブル作成」で細分化します。今回はその下準備です。

 

●ステップ7.個別の人材ニーズ明確化(アクションシートの作成))

 自部門の具体的な人材ニーズを明らかにし、個々のアクションに分解してアクションシートを作成します。アクションシートは職種(部門)別等級別に、何がどのような水準で行動できる社員であってほしいかを明らかにしたものです。

 高業績の社員が行う行動を生み出すそのもととなる何らかの能力であるコンピテンシーではありません。コンピテンシーは能力開発や評価には使えません。

 アクションシートは社員の皆さんに能力開発を図ってもらうための目安ともいえます。ここで明らかにした能力基準は行動基準でもあり、昇格や目標管理、社員教育まで含めた人材マネジメント全体の基盤となるものでとても重要です。慎重にじっくりと時間をかけて作りましょう。

 KJ法で作ることもありますが細かくて帰納的になりがちなので、事例を参考に作成します。

 前のステップで作成した人材ニーズ検討表の「能力の領域」を分解して作成します。しかし、人材ニーズでは「あるべき」人材像が中心なので日々の業務が入ってない可能性があります。日々の業務を行わなければ仕事は回りませんから、ここでは「あるべき人材像=あるべき論的切り口」と「今実際に行われている業務=帰納論的切り口」双方を組み合わせて作成します。前者だけでは会社は機能しないし、後者だけでは会社の発展はありません。 

 最初に要素を決めます。あまり細かくしすぎずに、作業を大きく括るようなイメージです。製造部門なら「溶接・製缶加工」「機械加工」「組み立て」「据え付け調整」「塗装」などに加え、「図面理解力」「工数管理」「クレーム処理」「安全衛生への取り組み」などもあってよいでしょう。

 営業であれば「新規開拓」「提案力」「顧客管理」「交渉力」「商品知識」「クレーム処理」といった括りでよいでしょう。

 「部下や後輩の育成」はどの職種にも共通でしょうし、風通しの悪い会社であれば「報連相」を入れてもよいでしょう。挨拶や身だしなみを入れている会社もあります。バカバカしいと思うかもしれませんが、本当に必要なことが欠けているのならば取り上げる必要があります。弊社の過去の経験では、挨拶の出来ない会社は山ほどありました。

 括りを細かくしないということは例えば「発注」「納期管理」「価格交渉」などの一連の業務ならこれらを大きく「仕入れ管理」などとひと括りにするイメージです。要素の数はあまり多くしないほうがよいです。上限10個程度を勧めます。

 くどいようですが「あるべき人材像=今はやっていないけれど会社が発展するためには本来必要な業務」を必ず入れてください。現状のままでよい会社はないはずです。今やっていることだけで本当によいのか、会社は生き残っていけるのか、そうでないならどんなことをやらなければいけないよく考えてください。

 人材マネジメントの目的は社員の能力開発を図り、それを会社や組織の成果につなげることです。同じことだけをやっていれば会社は先々必ずしぼんでいきます。それは社員の賃金もしぼんでいくことを意味します。

 要素が決ったら次は要素ごとにどんな行動レベルがどの等級に該当するか検討します。

 最初に等級別に総括的な全部所共通のイメージを決めます。1等級なら「上司や先輩のアドバイスを受けながら、通常業務を誤りなく行っているレベル」、2等級なら「通常業務を手助け無く誤りなく行っているレベル」、3等級なら「ベテランで概ね何でも任せておけるレベル・一通りの業務は十分でき手順などに問題があれば自分で修正できているレベル」といったイメージを全ての職種で共有してから作成に取り掛かります。

もちろんこれは事例ですから、自社のレベルに合わせた水準に必要に応じて変更してかまいません。これではレベルが低いのであれば好ましいことです。

 一般の5、6等級=エキスパートなどは社内だけでなく、業界でも相当高いレベルの能力が求められると考えたほうがよいでしょう。5等級以上の管理職においては原則としてマネジメント=チームの管理行動に限定することを勧めます。上位に行くほど管理する範囲が広くなるというイメージです。中小企業では管理職といえども実務も行うプレイイングマネージャーが多いと思いますが、それを隠れ蓑に本来やるべきマネジメントを避ける傾向があります。これでは本末転倒です。ここはあるべき論で、管理職に本来やるべき業務をはっきり求めましょう。

 この作業では出来栄えのよい部門、そうでない部門が出てきます。前者のアクションシートをコピーして他の部門に渡し参考にしてもらうと上手くいきます。時間が許せば最も出来栄えのよいものを他部門含めた全員で議論しよりよいものに磨き上げ、それを参考に他の部門のシートを修正すればベストです。

 次はバランス調整です。等級別に総括的な全部所共通のイメージにあわせて作ってはいるものの、職種間での難易度はおそらくバラバラでバランスが取れていないはずです。

 これを全員で協議して調整します。なかなかまとまらないことが多いですが収拾がつかない場合、最後はトップが決断しましょう。レベルがバラバラのままだと、職種別の評価シートに甘辛が生じてしまいます。

 これで部門別等級別に求められる行動、すなわちアクションシートが完成しました。 ひと山越えました。

 

●ステップ8.教育体系の構築

 7でアクションシートの作成により個々の人材ニーズが明らかになりましたから、次に能力開発を後押しする教育体系を構築若しくは整理し教育研修プログラムを作成します。

 教育の3本柱は「OJT」「Off-jt」「自己啓発」です。OJTは職場で直接行いますから仕組みとしては構築しません。Off-jtと自己啓発の仕組みを検討します。Off-jtには階層別教育と職種別教育があります。

 人材マネジメントではまずは階層別教育から始めて、必要に応じて職種別教育も追加していけばよいでしょう。教育にどれだけコストをかけるか会社によって異なるでしょうが、新入社員研修と管理職研修(課長クラス対象のマネジメント研修)の2つは最低必要です。

 中小ではまだまだ新入社員研修すら行っていない企業が多いため、管理職クラスでも名刺交換の方法を知らなかったり、社外の人と話す際社内の人を「さん」付けで呼んだりする方が多くいます。これでは会社も本人も恥をかいてしまいます。また、管理職であるにも関わらずマネジメントの考え方すら知らない方もいます。よってこの2つは最低実施しましょう。

 商工会議所等での研修ならそれほどコストはかからないはずです。

 仮に教育体系は整理されていなくても、すでに多くの教育を実施している会社も多いと思います。製造業ならフォークリフト、玉掛け、クレーン、ガス溶接、職長教育などは必須です。このようにすでに実施されている教育があれば、その基準をはっきりさせればよいだけです。これらを教育研修プログラムに記入します。

 次に自己啓発についてです。自己啓発はそもそも「自らの意思と自らの費用で自らの能力開発を図る」ものですから、建前上は会社が特に後押しをする必要はありません。しかし、会社によっては一部費用負担をするところもあります。会社にその意思があれば一定の額を上限に「通信教育」「研修会」の費用負担をします。

 申請書を作成しトップの承認を得た場合と限定したほうがよいでしょう。上限は2、3万円程度で休みは認めないところが多いです。組織風土にもよりますが、実際に申請する社員は少ないようです。申請が多すぎて会社が悲鳴をあげるくらいの組織風土にしたいものです。

 これで教育体系・教育研修プログラムが完成しました。

 

●ステップ9.評価テーブル作成(人事評価シート)

 求める人材像が明らかになりそれを後押しする教育の仕組みも出来ましたので、次はどれだけ会社に求める人材像に近づいたか、会社に貢献したか、努力したかを明らかにする評価テーブルすなわち人事評価シートを作成します。

 アクションシート同様職種別等級別に作成します。

 評価は「目標」「業績」「能力」「勤務態度」という4つの領域で行います。

このうち成果を中心にしたものを成果主義と呼びますが、ここでは成果主義ではなく実力主義の仕組みを構築します。

 これは4つの領域のバランスが取れたものということです。高い等級であれば目標や業績を、低い等級であれば勤務態度や能力のウエィトを高くします。

 目標は個人目標管理シート(ステップ10.目標管理システム構築にて作成)の合計点にウェイトをかけた数字を記入します。成果は「仕事の量」「仕事の質」の2つの要素で評価します。

 能力はアクションシートの要素を全てそのまま転記します。

 勤務態度は「6.全社的人材ニーズ明確化」で作成した人材ニーズ検討表の勤務態度から選択若しくは転記します。それ以外に会社で必要と思うものは自由に取り上げてかまいません。事例としてよくあるのは「積極性」「規律性」「協調性」「責任感」です。これら全てまたはいずれかはほとんどの会社で採用しています。

 これ以外にも「社会性」「改善意識」「原価意識」なども散見されます。ここには特にルールはなく普段問題だと思っていることをそのまま取り上げればよいでしょう。トップの思いは特にこの領域に現れます。差し上げる事例を参考に検討してください。 また、事例をいろいろ組み合わせても結構ですが、一つの要素であまり多くのことを求めると焦点がぼけてしまいます。勤務態度の要素は最大でも4個程度が限度です。

 

 次にウェイトを検討します。最初に4つの領域に配分したあと、個々の要素に配分します。まず領域に配分します。合計20を最低単位1で目標、業績、能力、勤務態度に配分します。

 合計を20とするのは個々の要素の評価の最高が5点なので5掛ける20=100点満点とするためです。目安として上位等級は目標や業績に、中位等級は能力に、下位等級は勤務態度に多めに配分します。目標や業績のウェイトが高いと成果主義に近くなりますから注意が必要です。

 次に勤務態度の領域に配分したウェイトを個々の要素に最低単位0.5で配分します。全て同じウェイトでもかまいません。このウェイトに個々の要素の評価点をかけて個々の要素の点数を算出します。

 能力は個々の要素に配分せず、全要素の平均点(小数点1位まで)×能力の領域のウェイト(小数点以下四捨五入)で得点を算出します。能力も個々の要素にウェイトを配分してもよいですが、複雑になるわりに効果が上がりませんので、スタート時点では平均点を勧めます。

 目標の得点は個人目標管理シートの得点×ウェイトです。

 これで評価テーブル、すなわち人事評価シートが完成です。

 

●ステップ10.目標管理システム構築

 人事評価シートの「目標」欄の詳細を記した個人目標管理シートを作成します。

 重点目標と本人目標2つずつ、計4個目標設定します。

 重点目標は本人とチームにとって最も重要と思われる目標で、本人と上司がよく話し合い双方合意のうえ決めます。本人目標は自分への期待を聞いたうえで、本人自らが決める目標です。

 それぞれのウェイトは8:2、若しくは7:3程度がよいでしょう。それぞれに分けたウェイトを更に2つの目標に最低単位1で配分します。

 次に難易度を決めます。難易度はA、B、Cの3段階とし、それぞれ職位以上若しくはレベルの高い目標、職位相当若しくは通常レベルの目標、職位以下若しくはレベルの低い目標です。5段階に分ける会社もありますが、あまり細かく分けると後で調整が大変です。

 次にチャレンジ加点を行います。高い目標へのチャレンジを促すため、目標設定時に難易度Aの目標には結果どうであれ評価点に1点加点します。ほとんどのお客様でこの仕組みを導入していますが、中には「チャレンジするだけで加点なんて認めたくない」という社長様もいらっしゃいました。不要なら外してもかまいません。

 次は「不測の障害救済」です。これは「外部環境の激変」「政治的要因」「著しい気象の変動」「本人ではいかんともしがたい外的要因」のいずれかの理由による目標未達の場合は、評価を1ランク底上げすることができるとするものです。

一生懸命やったが不運に襲われた人は共済しようという発想です。これもチャレンジ加点同様不要なら外してもよいですが、出来ればスタートの時点では採用したいものです。要因は会社の事情により変更してもかまいません。

 評価点は難易度Aの場合、目標を大きく超えた=7点、目標を超えた=6点、概ね目標どおり=5点、目標を下回った=4点、目標を大きく下回った=3点、難易度Bの場合はそれぞれ5、4、3、2、1点、難易度Cの場合はそれぞれ3、2、1、0、-1点とします。個人目標管理シート事例を参考に、これらに留意して必要に応じて修正して下さい。

 これで目標管理システム構築すなわち個人目標管理シートが完成しました。

 

●ステップ11.報酬テーブル作成

 報酬テーブルすなわち賃金の決定基準を決めます。賃金テーブルにはいろいろやり方がありますが概ね賃金表とポイント制の2種類があります。

 賃金表は皆さんご存知のとおり等級別にピッチの異なる号俸を作り個々の賃金を一覧にしたものです。ポイント制は等級と評価結果に応じてポイントを与え、全社員のポイント総計で原資を割り、社員個々のポイントに掛け合わせたものです。

 ここではポイント制を採用します。理由は原資の額に応じた賃金改定が出来るからです。仮に原資が少ない年であればポイント単価を切り下げることで対応できます。 逆に賃金表はいくら支払うと決めてあるわけですから、原資が少ない年は賃金改定額が原資を上回ってしまう可能性があります。というより上回ることのほうが多いでしょう。ベースダウンをしてもよいですが、社員に与える印象が実に悪いですね。さらに会社の収益とは関係なく支払いを約束する仕組みですから、経営上非常に危険です。しかし、全ての年齢の社員が同数ならば定期昇給するだけなら賃金総額は変わりません。

 ポイント制はポイント表を作成するだけです。どれが正解というものはありませんので、差し上げる事例を参考に決めてください。注意点は当該等級のC評価、E評価は下位等級のA評価、C評価よりそれぞれ1ポイントでもよいので高くすることです。 等級のイメージとして当該等級のAと上位等級のC、同じく当該等級のCと上位等級のEは概ね同じレベルと考えます。従って当該等級のAより上位等級のCのほうが低いポイントでは昇格意欲が減退します。構成上なかなか上手くはまらない場合もありますが、少なくとも上位等級のCが低くなることは無いように注意してください。上位等級のEも同じです。

 完成後は前年度の評価で試算を行いイメージとかけ離れていないかチェックし、必要に応じて修正を繰り返しましょう。

 賞与も理屈としてはポイント制を採用すべきですが、基本給ベースでの支払いに慣れている社員には違和感があるようです。基本給ベースとはかけ離れた支給額になる場合もあり、今までの給与の決め方を否定することとなりうまくありません。

 評価に応じて基本給×平均支給月数×A=1.2、B=1.1、C=1.0、D=0.9、E=0.8という方法を勧めます。評価による掛け率は自由に変更してかまいませんが、制度スタートの段階からあまり大きな差をつけることは避けましょう。差が大きいと目的は能力開発ではなく、社員の差別化ではないかと疑われてしまいます。

 賃金改定、賞与とも必要に応じて社長もしくは経営陣の自由枠を設定してもかまいません。仕組みを作ると経営陣が賃金決定の自由裁量権を放棄することになるからです。自由枠の根拠は不要です。呑みにつきあってくれるから、言うことを聞いてくれるからなど何でもかまいません。ただ、その理由を本人に直接伝えるとよりモチベーションが上がることでしょう。

 枠は総額の5%程度にとどめておきましょう。あまり大きいと仕組みの意味が薄れます。

 

●ステップ12.昇格昇進基準

 昇格と昇進の違いを再確認しておきます。昇格は評価に応じて等級が上がることで賃金処遇(賃金水準が上がること)があります。昇進は一定の等級に達したものの中からマネージャーとして管理能力が十分で組織の長として適任と会社が判断したものに管理職に任命することであり、役職手当を除いて賃金処遇は原則ありません。従って昇格には人数制限がなく、昇進には人数制限があります。

 昇格の基準は数年間の評価結果の積み重ねで決定します。低い等級の場合ハードルを低く、高い等級の場合は高くします。

 評語がAからEの場合1から2等級への昇格はCが2回以上、2から3等級の場合はB3回以上でB以上を1回以上含むというイメージです。

 会社の思想にもよりますが新入社員が最短で30代半ばから後半くらいに6等級(部長クラス若しくはエキスパート)に昇格できるくらいで設定することが良いと思います。

 ただ、上位等級ではあまり厳しくしすぎないほうが良いです。評語(AからE)は等級内での相対評価で決定しますので、上位等級へ行くほどレベルが上がり高い評語を獲得することが難しくなるからです。

 評価結果が経営陣のイメージとぴったり合っていることは少ないですから、5等級以上への昇格は役員会なりの承認が必要というルールを設けたほうが無難です。多くの企業はこの方法を採用していますが、決定した昇格基準は数年、場合によっては10年単位で検証しないと妥当かどうか分かりません。経験則としてこの検証が実に難しいです。

 また、何人か昇格すると翌年度は等級内のレベルが下がり、下がったもの同士で相対評価をすることになるのでレベルの低いものでも高い評語を獲得することがあります。これは小さな企業だとはっきり分かります。

 これらのデメリットを取り除くため、出来れば弊社が行っている認定制の導入を勧めます。認定制は評語中心ではなく、人事評価シートの個々の能力要素の出来栄えに応じて昇格させる方法です。

 能力の要素は概ね10個程度あると思います。このなかで4から5個程度必須の項目を決めます。この項目は必ず4点以上で、その他の評価要素の平均が3.5以上を昇格要件とするものです。この数値は事例ですから必要に応じて変更してかまいません。前期後期ともこの条件をクリアする必要があります。原則として能力の領域だけが対象ですが、場合によっては勤務態度の領域を入れても問題はないでしょう。

ただ、成果の領域だけは外したほうが無難です。

 こうすればどの項目を努力してクリアすればよいか一目瞭然ですし、納得性も高いです。また、周りのレベルが低いため実力はあまりないものの高い評語を獲得して昇格してしまうこともありません。

 評価のたびに人事担当が要件を満たしているかどうか全社員をチェックしなければならないというデメリットはありますが、明快で納得性も高いのでお勧めです。

 

●ステップ13.社員の格付け

 人材マネジメント導入時には全社員をいずれかの等級に格付けする必要があります。まず管理職から格付けを始めます。

 管理職でなくとも専門分野で非常に高い技術や能力を持つと会社が認めるものは、エキスパートとしますが慎重に決めましょう。

 あとで降格ということは避けたいですし、実際に他社で翌年降格という事例があり、本人がくさってしまったことがありました。経営計画発表会のパーティーの折、ご本人から直接愚痴を言われた経験があります。

 管理職とエキスパート以外は年齢、勤続年数、賃金の高さなどを総合的に勘案して決めればよいですが、どうしても基準が曖昧になりがちで社員の納得が得られにくいようです。

 経験則上、自分の格付けに強くこだわる社員が多いように思います。あまり表面には出なくてもマグマのようにたまっていることがあるので注意が必要です。

 社員の多くが暫定格付けに強くこだわり、制度の運用が頓挫した経験もあります。

 そこで、暫定格付け検討表を使い、上司、本人評価をもとに管理職会議等ですり合わせて決定することが良いでしょう。この方法が最もフェアで不満も少ないと思います。

 本人にも自己評価させ、上司と協議してすり合わせることが必須です。これを行うと納得度が高まります。

 

●ステップ14.人事評価トレーニング実施

 このトレーニングは必須です。人事評価は評価者により大きなばらつきが出ます。極端ですがある被評価者の評価要素に対し、ある評価者は5点、他の評価者は1点とつけたことがありました。

 これは仕方ありません、一人ひとり価値観が異なるからです。しかしこれでは人材マネジメントは機能しません。同じ価値観と目線で人事評価に取り組むことが前提です。

 人事評価の原理原則、評価者の心構えなどを理解したうえで、実施に評価を行い皆で付け合わせ目線合わせを行います。これは毎年実施してください。実施していく中で少しずつ評価のばらつきが減ってきます。

 一般的には1)目標管理の原理原則理解、2)行動記録をもとに各自評価、3)皆で協議して目線合わせという手順で行います。

 しかし、このトレーニングを社内で行うことは非常に困難で、社外の専門家に依頼したほうが無難です。訓練は一日程度で済みますからそれほどコストはかからず、間違いない訓練が受けられます。

 

●ステップ15.仮評価実施と問題点修正

 これで概ね仕組みが出来上がりましたので、仮評価を行います。そうすると評価基準が曖昧だったり、評価要素が妥当でなかったりと、いくつか問題が出てくることがあります。このような問題は必要に応じて修正しましょう。

 また、発表会での質疑応答で制度の不備と思われる点があれば、勇気を持って修正しましょう。少し変更するだけで社員は納得し、前向きな発言が出ることもあります。

 

●ステップステップ16、人材マネジメント運用の手引き作成

 最後に運用の手引を作成して制度の完成です。この手引きにもとづいて運用します。

 手引きには1.人材マネジメントの概要と特徴、2.人材マネジメントの運用、3.評価者の役割、4.個人目標の設定と評価方法、5.能力、勤務態度の評価方法、6.人材マネジメント運用スケジュールなどを記載します。

 1では人材マネジメントの説明と当社の仕組みの特徴を明記します。2では人材マネジメント全体の枠組みと個々の制度について明記します。3では1次評価者、2次評価者それぞれの役割と評価の手順を明記します。4では個人目標の項目数やウェイト、個人目標管理シートの記入方法などを明記します。5では能力、勤務態度の評価方法と手順、評価の基準について明記します。6では年間スケジュールを言葉ではなく図で明記します。

 

●ステップ17.社員への発表

 出来上がった人材マネジメントの仕組みは社員にきちんと説明します。発表者は人材マネジメント委員会の委員長でも良いですが、やはり人事部長などからが無難です。構築のお手伝いをした場合弊社が行う場合もあります。

 発表の場は朝礼、特別に時間を取る、経営計画発表会など様々です。手順は

 1.社長が制度にかける思いを語る、

 2.制度の説明、

 3.賃金決定基準を事例など用いて説明、

 4.質疑応答です。

 

 質疑応答ではかなり厳しい指摘などもありますが、真摯に対応し問題きちんと受け入れ必要に応じて修正の約束をしましょう。発表会の折に紛糾して少し時間をかけて修正したこともありました。

 これは社員たちへの情報不足が原因でした。社員の代表が集まる人材マネジメント委員会で一つずつ決めていくのですが、その際自部門に持ち帰り説明をしてメンバーからの意見を聞き、次の委員会に諮らなければならないのですが、委員がそれを怠っていたためでした。

 しかし、きちんと話をして必要な部分の修正を行うことで、社員が納得しさらに思わぬ前向きな発言をされ社長が感激した事例もありました。

 この発表の際は人材マネジメント運用の手引きから主な事項を抜粋し、1枚ほどにまとめた説明用のペーパーを配ると社員の皆さんも理解が進むと思います。

 

●ステップ18.目標管理・目標設定トレーニング実施

  人材マネジメントでは個人目標を設定します。この個人目標の設定が厄介です。目標設定には原理原則があり、それを理解していないと具体的で妥当な目標はなかなか設定できません。

 目標管理の原理原則を理解し、目標設定の方法を学ぶ目標管理・目標設定トレーニングを実施する必要があります。

 プログラムの事例は、

 1)目標管理の原理原則理解、

 2)個人目標設定、

 3)グループで磨き上げ、

 4)発表、

 5)講師からアドバイス、

 6)質疑応答などです。

 組織(個人)目標設定シートの個々の要因を埋めていき、それらをきちんと整理したうえで目標設定するとよいでしょう。

 このトレーニングも社内で行うことは少々困難で、社外の専門家に依頼したほうが無難です。訓練は一日程度で済みますからそれほどコストはかからず、的確な目標設定が出来るようになります。

 2~3年ほど継続して実施し、その間に社内講師を育成しその後は社内研修をすればよいでしょう。

 

●ステップ19.運用開始

 人材マネジメント運用の手引きに記載されているスケジュールにもとづき運用を開始します。人材マネジメント年間スケジュール表を作り、それにもとづいて運用すると間違いありません。経験則上、この年間スケジュールを作りことがとても重要です。

  事務局(人事担当)は目標設定、面談、評価、評価者会議など事前にアナウンスして評価者やメンバーに忘れの無いよう働きかけることが大切です。また、社員からの意見や問題点の指摘など情報収集を行い翌年度の修正に反映させる準備をすることも大切です。


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